【事例紹介】DV夫から,妻やその不倫相手が脅迫・恐喝等の不当要求被害を受けるケース

離婚事件,不貞慰謝料請求事件のご相談をいただく中で,DV夫から,妻やその不倫相手が脅迫・恐喝等の不当要求被害を受けるケースがあります。

以下,実際に弊所が扱った事例をもとに,対処法や解決の道筋を解説いたします。

【事例1】

夫からのDVを理由に離婚を求め,裁判上の和解により離婚が成立。
しかし,その数か月後,元妻に未練があった元夫は,元妻に新しい恋人ができたことをSNS上で知り腹を立てて,元妻に対し,「婚姻中に貸した金を返せ」「婚姻前に借金を立て替えた分の金を返せ」などと言ってLINEや電話にて執拗に連絡をするようになった。
元妻は,

  1. 婚姻中に元夫から生活費をもらっていた事実はあるが,金銭を借りた覚えはないこと
  2. 婚姻前に借金を返済してもらった事実はあるが,返還約束はしておらず,肩代わりしてもらったという認識であること
  3. そもそも裁判上の和解にあたって全て話合い済みであったこと

上記から,それらを元夫に伝えるも,元夫から,「今の彼氏に支払ってもらう。自宅に取り立てに行く。」などと言われ,不安を覚えて弊所への依頼に至る。

(解決に至る経緯)

受任後,速やかに弊所弁護士から元夫に対して電話連絡をして,裁判上の和解離婚により一切を清算しており,何らの支払義務を負っていないことを伝えた上で,依頼者に対して連絡や接触を図らないよう警告をいたしました。

しかし,その後,元夫は,共通の知人を脅迫して元妻の転居先住所を聞き出し,住所地の近辺を車で周回するなどしました。
元夫が弊所弁護士からの電話連絡に応答しなくなったため,書面にて損害賠償請求も辞さない旨を通知するとともに,警察に被害状況を報告し,警察からも相手方に連絡がなされたことで,無事に元夫からの連絡・接触行為が止みました。

(解説)

離婚協議書を作成して協議離婚する場合や,離婚調停や離婚裁判において和解により離婚する場合には,通常,慰謝料や財産分与の額を確定させて,その他お互いに一切の請求権がないことを確認する条項(いわゆる清算条項)を盛り込むため,離婚後に何らかの金銭請求をすることはできません。
また,夫婦は互いに扶養義務を負っていることから,夫から交付された金銭の使い道が夫婦の共同生活のために必要な支出であれば,単に夫が扶養義務を果たしたものであるか,又は夫が妻に贈与したものと認定されて,返還義務を負わない可能性が高いでしょう。
婚姻前に,自身の借金を夫に支払ってもらったような場合も,返還約束をしていないのであれば,同様に贈与と認定されるものと考えられます。

したがって,離婚後に元夫から何らかの金銭を請求されるケースは,法的根拠のない不当な要求であることが多いといえるため,毅然とした態度で支払義務を否定すべきでしょう。
相手方に対して,要求通り金銭を支払う旨回答してしまうと,後にその発言を証拠として裁判を起こされた際に不利に働いてしまうおそれがあるため,注意が必要です。

次に,弁護士であれば,携帯電話キャリア(docomo,softbank,KDDI等)に対して住所等の登録情報の照会をすることができますが,一般人が,相手の電話番号しか知らない状況において,相手の転居先住所まで調べることは通常困難です。

しかし,上記事例のように共通の知人を脅して住所情報を聞き出したり,SNS等インターネット上に落ちている情報を集めて住所の特定を図ったりする事例も散見されます(勤務先を知られているケースで,探偵の尾行により住所を突き止められることもあります)。

住所を突き止めた相手方が自宅に押しかけてきて立ち去らない場合などは,不退去罪に該当し得るため,直ちに警察に通報すべきでしょう。

なお,ストーカー規制法違反と認められるためには,執拗な連絡やつきまとい等,身体の安全や住居等の平穏等が害される不安を覚える行為が繰り返し行われている必要があり,そのような段階に至っていない場合には,警察が直ちに動いてくれないということもあります。

しかし,相手の行為がエスカレートしてしまった場合に備え,念のため早い段階で警察に相談をしておくことが望ましいでしょう。

多くのケースでは,弁護士から警告をすることで脅迫行為やストーカー行為が止みますが,稀に弁護士を飛び越えて本人に連絡・接触を図ってくるケースもあります。

そのような場合は,警察からも警告をしてもらうべく,状況報告のために弁護士が警察署に同行することもあります。

【事例2】

夫から日常的にDVや束縛を受けていた妻が,同僚の男性と不貞関係を持つようになり,月に数回ラブホテルで密会をしていたところ,ある日,不貞相手の男性と共にラブホテルから出た際に,待ち伏せしていた夫とその友人数名に取り押さえられた。夫は探偵を雇って妻の素行調査をしていたようで,その場には探偵も同席していた。

夫は,手拳で不貞相手の男性を殴打し,さらに自身の車に乗せて約2時間にわたり詰問した上,「職場や家族(不貞相手の男性にも妻子がいた)に不倫の事実をばらされたくなかったら慰謝料を払え」と言って500万円を請求し,念書を書くように求めた。

不貞相手の男性は,恐怖心から,500万円を支払う旨を内容とする念書にサインをした

その後,不貞相手の男性は,支払いができずにいたところ,夫から繰り返し支払催促や脅迫のLINEが届き,弊所への依頼に至る。

(解決に至る経緯)

このケースでは,受任後,速やかに弊所弁護士が夫に電話連絡をして受任の旨を伝えた上,

  1. 念書の効力は無効であると考えており,500万円の支払いには応じられない旨
  2. 不倫をしたことは事実であるため,一定額の慰謝料は支払う意向である旨
  3. 暴行を受けたことにつき損害賠償請求をすることや被害届を提出することを検討している旨
  4. 依頼者の妻や職場に不倫の事実を暴露することは場合により名誉棄損やプライバシー侵害として不法行為になり得る旨

上記をそれぞれ伝えました。
夫は,妻と離婚することとなったため,慰謝料額につき当初なかなか減額に応じませんでしたが,粘り強く交渉し,最終的に不貞当事者が連帯して150万円の慰謝料を支払うこと,暴行の件で被害届は提出しないことを条件とする和解が成立し,依頼者は自身の妻に不倫の事実を知られることなく事件が終結しました。

(解説)

本件のように,脅迫的言辞を申し向けられるなどして,高額の慰謝料を支払う旨の念書や誓約書を強引に書かされるケースは少なくありません。

今回のケースでは,暴行を受けたといった事情もあり,裁判上も真意に反してサインをしたと認定されて念書の効力が否定される可能性が高いといえますが,原則として自らサインをした合意書類は有効であり,効力を覆すことは困難であることが多いといえます。

したがって,安易に書面にサインすることは極力避けましょう。

相手方から暴行や脅迫を受けた場合には,その場で警察や弁護士に連絡をするというのも一つの自衛策です。

【まとめ】

万一,サインをしてしまった場合は,支払いをしてしまう前に,一度弁護士にご相談ください。様々な事情から合意書類の無効を主張できる可能性がありますし,仮に無効と認められても一旦支払ってしまった金銭を取り返すことには相応のハードルがあります。

一般的に,DV夫は,嫉妬深いタイプが多いように見受けられます。そのようなタイプの夫は,上記各事例のような過激な行動に出ることが多いでしょう。ご自身で対応するには相当の精神的負担がかかると思われるため,お早めに弁護士に相談することをお勧めします。